皆さん、こんにちは。
港区新橋・芝大門の国際税務専門家の波多です。
Yahoo!ニュース(産経新聞)に「中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ」という記事が掲載されました。
<独自>中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ(産経新聞) – Yahoo!ニュース
えっ、留学生はバイトしても税金を払わなくてもいいの?と思ったかたもいるのではないでしょうか。
中国人留学生は、多くの場合、日本でバイトしても免税になります。
一方、ベトナム人留学生は、日本でバイトしたら日本で課税を受けます。
なぜこのようなアンバランスが生じているのでしょうか?
それは、それぞれの国と締結している租税条約の規定が異なるからです。
コンビニなどの小売業や居酒屋などの飲食業では、バイトで外国人留学生を採用する機会も多いのではないでしょうか。
源泉徴収の取扱いを誤った場合、その責任はバイト代を支払う経営者(源泉徴収義務者)にあります。
この規定を誤って適用しているケースも多いので要注意です。
今日のブログでは、留学生のバイト給与の免税規定について、分かりやすく解説していきます。
目次
日本の所得税法上、留学生が「居住者」か「非居住者」かによって、その課税の範囲や方法が異なってきます。
しかし、国籍の違いによって、課税上の取扱いが異なることはありません。
では、なぜ中国人留学生のバイト代は免税となるのか?
それは、日本と中国との租税条約(以下、「日中租税条約」といいます)によって免税となるのです。
日中租税条約第21条には、以下のように規定されています。
第21条(学生) 専ら教育若しくは訓練を受けるため又は特別の技術的経験を習得するため一方の締約国内に滞在する学生、事業修習者又は研修員であって、現に他方の締約国の居住者であるもの又 はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付又は所得については、当該一方の締約国の租税を免除する。
目がパチパチしてくる内容ですね!
簡単に言えば、教育を受けるために中国から来日した中国人留学生については、日本での生活費や学費に充てる程度のアルバイト代であれば免税としますよ、という内容です。
この日中租税条約によって、中国人留学生のバイト代は免税となっているのです。
日本の留学生のうち、中国人留学生の次に多いのはベトナム人留学生ではないでしょうか。
それじゃ、ベトナム人留学生のバイト代も当然免税だよね、となりますよね。
しかし、残念ながらそうはなりません・・・・・。
日本・ベトナム租税条約の第20条を見てみましょう。
(どうでもいいですが、正しくは「ヴィエトナム」です・・・。ベトナムでいいですよね?)
第20条(学生) 専ら教育又は訓練を受けるため一方の締約国内に滞在する学生又は事業修習者であって、現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付については、当該一方の締約国の租税を免除する。ただし、当該給付が当該一方の締約国外から支払われるものである場合に限る。
日中租税条約と比べると、ただし書きがあります。
ただし書きでは、国外から支払われるものであれば「免税」になるとしています。
日本でのアルバイト代は、国外から支払われるものではないので「免税」にはならないのです。
中国人留学生のバイト代が免税なのを横で見ていて、自分のバイト代からは税金を引かれるベトナム人留学生はかわいそうですよね。
このアンバランスさが、日中租税条約の改正の理由の一つになっているのです。
中国人留学生のバイト代が免税となること、これを知っている経営者のかたも多いのではないでしょうか。
そこで注意しなければならないのは、「免税」の特典を受けるためには、「租税条約に関する届出書」の提出が必要だということです。
何も届出をしていなければ、原則としては、中国人留学生のバイト代であっても源泉徴収が必要になってしまいますのでご注意ください。
具体的には、「様式8」の租税条約に関する届出書を提出することになります。
留学生であれば、学校の発行する在学証明書も必要となります。
詳細は、国税庁のホームページをご参照ください。
[手続名]租税条約に関する届出(教授等・留学生・事業等の修習者・交付金等の受領者の報酬・交付金等に対する所得税及び復興特別所得税の免除)|国税庁 (nta.go.jp)
この規定のもう一つの注意点は、「学生の範囲」です。
「学生」って、どこまでが「学生」。
大学生?日本語学校生?その範囲はどこまででしょうか。
学校教育法第1条に規定する学校の学生、生徒または児童とされています。
第一条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
ここに日本語学校は含まれていません。
つまり、日本語学校の生徒である中国人留学生には、免税規定が適用されないことになります。
中国人留学生のバイト代が免税となる理由、ご理解いただけたでしょうか。
留学生を採用する経営者の方々のご参考になれば幸いです。
ただし、学生条項の規定は、留学生の国に応じて租税条約を確認する必要があり、必要な届出も相手国によって異なってきます。
制度の概要をご理解いただくことは大事ですが、税務判断とその手続きについては、顧問税理士さんにご相談することをおススメいたします。
余談ですが、日中租税条約には「みなし外国税額控除」の規定が残っています。
「みなし外国税額控除」とは、納税者が得する税額控除の一つです。
日中租税条約の改正によって、この規定もなくなることが想定されます。
「みなし外国税額控除」については、また別の機会に分かりやすく解説していきたいと思います。
それでは、また次回のブログで!
税理士 波多倫己(はた ともみ)
法人・ミニマム法人の設立や個人事業の開業などスタートアップの支援、海外取引など国際税務の支援に力をいれている事務所です。
新橋・芝大門エリアの国際税務会計事務所で、新橋・汐留・浜松町・芝大門からアクセス可能です。
中野区に在住していますので、中央線や丸の内線をよく利用しています。
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