皆さん、こんにちは。
港区新橋の自称若手税理士の波多です。
(平均年齢が60歳代と言われる税理士業界では若手です。異論は認めます。)
先日、Yahooニュースで「三菱電機、源泉徴収漏れで追徴 コロナ帰国後の勤務 東京国税局」というニュースが掲載されていました。
不納付加算税を含めた約1.4億円の追徴課税がされたとのことです。
コロナ禍によって、日本企業の海外駐在員は日本への帰国を余儀なくされました。
勤務地の変更によって、日本での課税関係が変わってきますが、これに対応できていない日本企業が多かったのかもしれません。
コロナ禍が落ち着いてきたこともあり、今後は実地での税務調査も増加していくものと思われます。
そのため、同様のケースで追徴課税を受ける日本企業も増えていくことが想定されます。
Yahooニュースでは、事実関係のみの記載となっていますので、なぜ課税を受けたのか?税理士が詳しく解説していきます。
記事のポイント
・居住者の判定
・国内源泉所得の判定
・短期滞在者免税(183日ルール)の判定
<課税関係のまとめ>
目次
以下の前提で解説していきます。
日本企業の中国子会社S社に勤務している田中さんが、コロナ禍によって日本に一時帰国していました(中国子会社S社は、日本に支店等のPEを有していない)。
しかし、現地の状況が落ち着き次第、中国にまた戻る予定です。
そのため、日本への帰国後も中国子会社の業務を行っており、給与は中国子会社からのみ支給されています。
田中さんの居住形態は、「居住者」と「非居住者」のどちらに該当するのでしょうか?
居住者とは、国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人とされています。
また、国の内外にわたって居住地が移動する場合には、住所地の判定に「推定規定」が用いられます。
田中さんの場合、コロナ禍が落ち着き次第また中国に戻る予定であるため、日本での滞在は一時的なものであり、生活の本拠地を日本には移したとはいえないでしょう。
そのため、日本での滞在が1年以上とならない限り、それまで日本の税制上は「非居住者」として取り扱われるものと考えられます。
なお、日本への帰国中に海外赴任を解除して、日本本社勤務に戻した場合には「居住者」に該当するものと考えられます。
非居住者については、日本に源泉のある所得である「国内源泉所得」についてのみ課税されます。
給与については、国内において行う勤務に起因するものを「国内源泉所得」と規定しています。
田中さんの場合、日本に滞在しているものの、海外子会社の業務を行っています。
この場合、「国内源泉所得」に該当するのでしょうか?
現在の法令においては、「国内源泉所得」に該当するものと考えられます。
実態を考えれば違和感はあるものの、現在の法令においては実際の「役務提供地」で判断することになります。
では、田中さんは日本ですぐに課税を受けるのでしょうか。
そんなことはありません。
日中租税条約には、「短期滞在者免税(183日ルール)」が規定されており、短期間の滞在では、日本で課税を受けません。
例えば、田中さんが3月ごとに日本本社に出張をして1週間滞在したとします。
その都度、田中さんが日本で課税されるのでしょうか?
課税されていた場合、国際的な人的交流を阻害しますので「短期滞在者免税(183日ルール)」によって、短期間での滞在については日本での課税を免除しているのです。
短期滞在者免税(183日ルール) / 日中租税条約第15条第2項 |
①報酬の受領者が当該年を通じて合計 183 日を超えない期間当該他方の締約国内(日本国内)に滞在すること |
②報酬が当該他方の締約国(日本)の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること |
③報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと |
田中さんの日本での滞在期間が183日以下である場合、給与も中国子会社S社からしか支給されていないので、「短期滞在者免税(183日ルール)」の要件を満たせることになり、日本では課税されないことになります。
それでは、日本での滞在期間が183日を超えた場合、どうなるのでしょうか。
「短期滞在者免税(183日ルール)」の要件を満たせないため、田中さんは日本で課税されます。
中国子会社S社は、日本国内に支店等を有さないため、国内源泉所得に該当する給与を非居住者である田中さんに支払ったとしても源泉徴収義務はありません。
しかし、田中さんに支給する給与は国内源泉所得に該当するため、田中さんは日本において準確定申告を行う必要があり、分離課税で20.42%の税率により所得税を納税する必要があります。
この場合の確定申告期限は、翌年の3月15日となりますが、その前に出国する場合には、その出国日までに準確定申告および納税を行うことになります。
Yahooニュースには、「帰国後も現地法人などの海外業務に関わったが、その間の給与は三菱電機が支払った。」と記載があります。
これが事実だとすれば、海外駐在員の滞在が183日以下であったとしても、短期滞在者免税(183日ルール)の要件を満たさないことになります。
つまり、海外駐在員は日本で課税されることになり、給与の支払者である三菱電機には源泉徴収義務が課されることになります。
今回の税務調査の事例では、以下のいずれかの対応が必要だったと考えます。
①海外駐在員の給与は、海外子会社が支給する。
②海外駐在員の海外赴任をいったん解除して、日本の居住者とする(つまり、通常の日本本社の従業員と同じ取扱いとする)。
同様の誤りがあった場合、自主的に修正すれば不納付加算税が10%から5%に軽減されますので、早期に修正されたほうがよいでしょう。
源泉所得税については、法人のみならず従業員個人の課税にも影響を及ぼしますので、修正も大変ですし皆さんご注意ください。
個人的には、日本本社が負担していた、海外子会社の業務を行っていた海外駐在員の給与は、寄附金課税を受けなかったのか?というところも気になるところです。
それでは、また次回のブログで!
税理士 波多倫己(はた ともみ)
個人事業の開業、法人設立やミニマム法人の設立などスタートアップの支援、海外取引など国際税務の支援に力をいれている税理士事務所です。
新橋・芝大門エリアの税理士事務所で、新橋・汐留・浜松町・大門からアクセス可能です。
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